数々の傑作を生み出しているジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督の『息子のまなざし(2002年)』。
この映画もまさに名作です。
とても重たい主題を扱った沈鬱な映画なんですが、これぞ芸術作品という内容ですね。
1999年の『ロゼッタ』、2005年の『ある子供』でカンヌ映画祭の最高賞であるパルムドールを2度受賞したジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督。
この『息子のまなざし』では、主演のオリヴィエ・グルメがカンヌ映画祭・主演男優賞を受賞しています。
複雑な感情を抱える人間の葛藤を、ここまで緻密に描き切った作品というのはあまり例がないと思います。
「人間というもの」「人間の本質」を知りたいという方は、絶対に観て損をする映画ではないですよ!
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まずは簡単なあらすじからどうぞ。
ある事件から心を閉ざしてしまったオリヴィエは、職業訓練所で大工仕事を教えている。
ある日、訓練所に入所してきた少年・フランシスは大工のクラスを希望するが、オリヴィエは手いっぱいだと断る。
しかし、オリヴィエは人に気付かれないように彼を追い。。
「息子のまなざし」を観た僕の感想
ではここからは、「息子のまなざし」のストーリーを追いながら、僕の感想を書いていきたいと思います。
ネタバレも含みますので、これから観ようという人は注意してくださいね。
特にこの映画は、作品の中盤くらいまで主人公のオリヴィエがなぜ心を閉ざして苦しんでいるのかが明かされません。
それを知らない状態で映画を観たいという人は、ここから先は読まずに、まずは映画を観てみてくださいね!
オリヴィエの心の闇
主人公のオリヴィエは職業訓練所で少年院から出てきた少年などに大工仕事を教えているですね。
誰にも心を開こうとしない孤独な中年男性という雰囲気を醸し出しているオリヴィエ。
ある日、フランシスという少年が訓練所に来た時から、そんな彼の心の闇は更に深くなったように見えるのです。
最初、フランシスはオリヴィエが担当する大工のクラスを希望するのですが、オリヴィエは断ってしまうのですね。
でも一日じっくりと考えた後、やっぱりフランシスを受け入れると担当者に言うのです。
そこからオリヴィエは、まるでストーカーのようにフランシスの事を隠れて追い続けるのです。
まさに、舐めるように少年の一挙手一投足を隠れて見つめ続けていくのですね。
その尋常ではない行動が何を意味するのか?
それが明かされるのが、別れた妻との会話で明かされます。
「あなたどうする気なの?息子を殺した男よ。」
ここで衝撃の事実が明らかになるのです。
フランシスはオリヴィエの息子を殺した相手なのです。
でも不可解なのは、なぜオリヴィエはフランシスを教えることに決めたのか?
近くに置いておき、隙をみて殺してやろうと思っているわけではないようです。
ただただフランシスのことを見つめている、観察しているのです。
何故そんなことをしているのか、彼にもよく分かっていないのでしょう。
またある時の別れた妻との会話。
オリヴィエが大工のクラスを終え、フランシスを車で家まで送ろうとした時に妻と出会うのです。
妻はオリヴィエが息子を殺した相手を教えていて、そして車で家まで送ろうとしている意味が全くわかりません。
妻は言うのです。
「何をする気?狂気の沙汰よ。なぜなの?」
オリヴィエはただ一言。
「分からん。」
とても重たい一言です。
オリヴィエの心の底から出た言葉なのでしょう。
自分がいったい何をしているのか「本当に分からない」のでしょう。
オリヴィエがフランシスになりきるという事
もうひとつ、非常に印象的な場面がありました。
オリヴィエがフランシスの後をつけて、彼の家を特定するのです。
そして彼がいない時に家に入り込むのですね。
そこで彼は何をするわけでもなく、部屋を見回し、そして考え込むのです。
また彼のベッドに寝転び、じっと物思いに耽っているのです。
ここでようやく観ている側の我々は悟るのですね。
息子が殺されるという、世界がひっくり返るような悲劇が起こってしまい、オリヴィエの心は崩壊寸前の状態にある。
その全く理解できない突然の災難を整理できないまま、無為の日々をただただ送っていたオリヴィエの前に、全ての元凶を引き起こした人間が突如として現れたわけです。
オリヴィエはなぜ息子が殺されることになったのか、「とにかく知りたかった」のでしょう。
とにかく知らなければ、全く前に進めない。
オリヴィエの人生は、息子がいなくなった時から完全に止まってしまったわけです。
フランシスの部屋で、彼のベッドの上に寝転んだ時、オリヴィエはフランシスの視点から世界を見ていたのでしょう。
というか、その瞬間、オリヴィエは完全にフランシスになっていたのでしょうね。
それが現実的であるかどうかは別として、僕はその行動がとても普通というか、自然な行動であるかのように感じたんですよね。
そうせざるを得ないのであろう、そうしなければならないと思ってしまうのだろうと。
フランシスの部屋に忍び込んでのオリヴィエの行動、表情、その描写にジャン=ピエールとリュックの両監督の凄みを感じました。
深い人間洞察、人間の内面の繊細な描写には圧倒的な定評がある監督ですが、この場面はまさに圧巻でした。
「人間」とはどういうものなのか、「世界」とはどのように成り立っているのか、本当に深く把握しているんだろうと感じ入りました。
「お前が殺したのは私の息子だ」
さてその後、オリヴィエとフランシスは二人きりになる時間が増えていきます。
オリヴィエはフランシスに大工仕事を他の生徒同様に丁寧に教えます。
オリヴィエは職業訓練所を出て実際に働き始めている元生徒のことまで気にかけており、仕事を休んだと聞くと心配して家まで行ったりもするのです。
元妻に「職業訓練所で生徒に教えるのが好きなんだ」と話していたのですが、息子を失って大きくぽっかりと開いてしまった穴を埋めるかのように、不器用ながらも生徒の面倒をみているのでした。
何もしなければ精神が崩れていってしまうのを、そうすることで何とかバランスを保っている、まさにそんな印象を受けました。
そのあたりの描写も非常に繊細で切実なんですよね。
そしてオリヴィエはフランシスを木材調達の作業へと誘います。
車で片道40キロ以上ある木材工場へ二人きりで行くわけなので、たっぷりと二人で話せる時間があるわけです。
色々と細かい事件があるわけですが、木材工場へ着き、二人で黙々と木材を運ぶ作業が始まります。
黙って作業を続けている時、おもむろにオリヴィエが切り出すのです。
「お前が殺したのは私の息子だ」
いったい何が起こったのか、全く理解できないという表情を浮かべたフランシスは、ハッと我に返り、逃げようと走り出すのです。
オリヴィエはフランシスを追いかけながら叫ぶのでした。
「怖がらなくていい!戻ってこい!ただ話がしたいだけなんだ!」
と。
逃げるフランシスを何とか捕まえ、引きずり倒して、首を絞めつけます。
フランシスは無抵抗で馬乗りになったオリヴィエを見つめています。
オリヴィエは首を絞めていた手を離し、やり場のない怒りにうち震えるのです。
それからオリヴィエはまた淡々と木材積み込み作業に戻るわけです。
一人で木材を車に積み込んでいると、フランシスが戻ってきます。
少し離れたところから作業を見つめていた彼は、やがてオリヴィエを手伝い始めるのです。
オリヴィエも戸惑いながら、フランシスと二人で木材を積み込んでいくのです。
そこで映画は終わります。
絶望的な出来事から回復するという事
もちろん息子を殺した相手を許す事はできないが、でも最後の共同作業の瞬間、確かにフランシスを受け入れたように感じるのです。
そしてフランシスを受け入れたことで、オリヴィエの心の闇も僅かに解消されたように感じるのです。
加害者を、例え僅かではあっても受け入れるという段階が訪れないと、被害者も本質的に救われることはない。
そのようなあまりにも複雑で、難しい人の気持ち、その解明に挑戦しているかのようでもありました。
絶望的な出来事から回復するというのはどういう事なのか、その可能性が提示されているのです。
わずかではあっても、最後は「希望」が描かれているのですね。
しかし何という映画なんでしょうか!
全編を通して、全く音楽が流れない、殺伐とした雰囲気で時間が流れていきます。
気分がスッキリ爽快するような要素は全く含まれていない映画ですが、こんなにも「人間」を深く徹底的に見つめる映画というのは、他にはなかなか見当たらないです。
そういうタイプの映画が好きな方は、きっと「息子のまなざし」に打ちのめされることになると思います。
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