今回のラグビーワールドカップ予選プールで最も注目されているカードである、ニュージーランド対南アフリカ。
結果は、23-13でニュージーランド・オールブラックスが勝利しました。
南アフリカが好調をキープしてワールドカップを迎えたので、ニュージーランドが敗れる波乱があるかもしれない、というムードも漂う中、やっぱり王者は強かったですね。
しっかりと勝ち切り、世界ランキング1位という定位置も、アイルランドから奪い返すことになりました。
南アフリカも十分に持ち味は発揮していたと思います。
ディフェンス時の圧力と迫力は、やっぱり世界最高ですよね。
攻めるニュージーランドに対して、強烈なタックルを見舞い続けていました。
現在、世界のラグビー界におけるディフェンスの潮流は、「ラッシュディフェンス」と呼ばれるような、鋭く前に飛び出すディフェンスですよね。
日本代表もまさにそのようなディフェンスシステムを採用しています。
ディフェンスライン全体で、鋭く前に飛び出すことで、攻める相手のスペースを奪う事を目的としているわけです。
南アフリカは、以前はそのように極端に前に出るディフェンスシステムは採用していませんでした。
そこまで冒険的なディフェンスをしなくても、個々人のパワーでしっかりと止め切れていたので、そこまで切実にラッシュディフェンスの必要性を感じていなかったのでしょう。
しかし、なかなか勝てないここ数年の低迷期を経て、抜本的に変化する必要性を感じたのでしょう、ディフェンスシステムを世界の潮流に近い形に変えてきました。
多くの時間帯で、南アフリカのディフェンスシステムはうまく機能していたと思うのですが、ニュージーランドの上手さに対応できない局面が何回かあったのだと思います。
素早く前に出るディフェンスは、相手が普通にボールを回してきた時には、うまくスペースを奪う事ができるので、ゲインラインよりもかなり前でタックルできたり、相手の攻め手を奪ったり、有効に機能することが多いわけです。
ただし、早く前に出る分、ディフェンスラインの後ろには大きなスペースができてしまうわけですね。
ニュージーランドのスタンドオフ、リッチー・モウンガは、ボールを回すと見せかけて、ディフェンスが一気に上がってきたところの裏のライン際に、キックパスを有効に使っていましたよね。
ニュージーランドの1本目のトライも、リッチー・モウンガのキックパスがきっかけでした。
1本目のトライには、ニュージーランドラグビーの強みが凝縮されているような印象を受けました。
リッチー・モウンガのキックパスを受けたウィングのセブ・リースは、完全に制止した状態から一気に加速して対面のウィング、マカゾレ・マピンピを抜き去りました。
見事な個人技でしたよね。
でも僕が凄い!と思ったのは、その次のプレーでした。
通常であれば、ウィングがライン際を抜けた時、相手のフルバックがコースを抑えながらディフェンスに来るし、その他のカバーディフェンスも戻ってくるので、かなりスピードや個人技に差がないと、抜き去るのは難しいんですよね。
なので、そのような状況では、裏へのキックを選択するウィングも多いですよね。
しかし、一気に抜け出したセブ・リースの真横に張り付くようなサポートに登場したのが、スクラムハーフのアーロン・スミスでした。
セブ・リースはアーロン・スミスにパスし、アーロン・スミスは相手を引き付けてスピードに乗っていたアーディー・サベアにすぐパスしました。
このプレーで一気にゲインして、次のポイントからジョージ・ブリッジのトライが生まれたわけですね。
この試合のハイライト動画で、このトライシーンもチェックすることができます。
⇒⇒ ハイライト動画
このトライは、セブ・リースが抜け出した後、アーロン・スミスがサポートしてボールを繋いだプレーで決まったようなところがあると思います。
スクラムハーフがあのような形でサポートできれば、相手のカバーディフェンスは届かないんですよね。
このようなサポートプレーが得意な選手として、真っ先に思いだすのが、元オールブラックスで現在は神戸製鋼でプレーしているスクラムハーフのアンドリュー・エリスです。
このアーロン・スミスのプレーと全く同じようなコース取りでサポートしているアンドリュー・エリスを、神戸製鋼の試合で何度も目にしています。
そのアンドリュー・エリスのサポートプレーを、神戸製鋼で一緒にプレーしている元日本代表の日和佐篤が、「世界最高レベルのサポートプレー」と絶賛しているんですよね。
そして日和佐篤も、アンドリュー・エリスのサポートプレーのコースを学ぶことで、素晴らしいサポートを神戸製鋼に来てから連発するようになっています。
アーロン・スミスとアンドリュー・エリスの、密集後のスクラムハーフの位置から一気に最短距離でサポートするプレーは、ニュージーランドにおけるスクラムハーフの大切だと重視されているスキルなのかもしれません。
ハイランダーズ時代に、アーロン・スミスとスクラムハーフのレギュラー争いをしていた田中史明は、アーロン・スミスの能力の高さを絶賛していました。
「パスの長さと速さ、キックの飛距離、走る速さ。どれをとっても全くかなわない」と。
この試合でも、上記のサポートプレーだけではなく、持ち前のスピードを活かして、バックスラインの裏に出られそうな場面でしっかりとタックルしていたり、素晴らしいプレーを連発していました。
まさに、世界最高のスクラムハーフの一人ですね。
田中史明は、アーロン・スミスの高い身体能力を絶賛していたわけですが、ただ、アーロン・スミスも間違いなく田中史明の影響は受けているんですよね。
ポイントから、溜めを作ってタイミングをずらしてパスするスキル、ポイントからボールを出そうとする相手スクラムハーフへのプレッシャーのかけ方、など田中史明と同じようなプレーをしているなぁとアーロン・スミスを見ていて感じる事があります。
田中史明の匠の技術が、世界最高のスクラムハーフにも影響を与えているんですよね。
そのようなアーロン・スミスのプレーを含め、圧倒的な身体能力を誇る選手たちの、基本的なプレーが積み重ねられることで生まれるニュージーランドのトライは本当に美しいです。
勝敗は別として、本当に一つ一つのプレーを見ているだけでも十分に価値があるんですよね。
南アフリカを破ったことで、ニュージーランドは一気に勢いを増してくるかもしれませんね。
もちろん、南アフリカも決して内容が悪かったわけではないので、ニュージーランドと決勝で戦うというモチベーションで今後の試合を戦っていくでしょう。
思い返せば、4年前も南アフリカは初戦で日本に負けてから、見違えるようにチームがまとまって良い試合をするようになりましたよね。
決勝で両チームの再戦が実現する可能性も十分にあるでしょう。
見応えたっぷりだったこの試合。
世界最高峰の試合がこれから何試合も見られると思うと、本当に嬉しくなりますよね。
ラグビーワールドカップの全試合がJSPORTS(スカパー)で放送されます。
日本でラグビーワールドカップが開催されるという、人生で一度きりの機会を心の底まで楽しみましょう!
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