深田晃司監督の渾身の力作、『淵に立つ』。
「家族」というものの本質を深くえぐる、とにかく素晴らしい芸術映画です。
第69回カンヌ国際映画祭「ある視点部門審査員賞」に輝いたということからも、エンターテイメント作品というよりは、芸術性の高い作品であることがうかがえますね。
『淵に立つ』のあらすじを簡単に紹介すると、こんな感じですね。
郊外で小さな金属加工工場を営む、夫・利雄、妻・章江、10歳の娘・蛍の平凡な3人家族。
そんな鈴岡家のもとに、ある日、利雄の旧い知人で元服役囚の八坂が現れた。
八坂が現れたことで、鈴岡家の平穏な生活が崩壊へと向かっていく。
秀逸の人間ドラマ。
『淵に立つ』を撮った深田晃司監督の家族観
『淵に立つ』は、家族を描いた映画なんですが、通常の家族を描いた映画のような温かさは全編を通してほぼ感じることはないと思います。
そのあたりは、深田晃司監督の「家族観」を事前に知っておけば、いったいどのような映画なのか雰囲気が掴めるかと思います。
『淵に立つ』の最も重要なモチーフは「人間の孤独」ということのようです。
また、「一番描きたかったのは暴力」だとも深田監督は語っています。
そのような映画に少しでも興味を持った方は、是非とも『淵に立つ』をご覧になってみて下さい。
「家族」について、また「人間の孤独」について、今までとは全く違った観点から深く考えるきっかけを与えてくれることは間違いありませんよ。
僕はこの映画に出会えて本当に幸せだと感じました。
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『淵に立つ』を観た僕の感想
ここから先は「ネタバレ」を含みますので、これから映画をご覧になろうと思っている方は注意してくださいね。
夫・利雄、妻・章江、10歳の娘・蛍の3人家族は、一見すると何の問題も抱えていない、平凡で幸せな家族に見えるわけです。
ただ、少し凝視して見てみると、そこに本物の温かさを感じることができないんですよね。
表面的な、ふわふわ浮ついたような会話をただただ繰り返しているだけなのです。
子供達が「家族ごっこ」をする時に交わし合うような、そんなありきたりで無味乾燥な会話が繰り返される、そんな印象なのです。
家族それぞれが、相手の心には全く入り込めていない。
本当の意味では心は繋がっておらず、ただその場にたまたま3人でいる、ただそれだけという感じなんですね。
家族が強固な絆で結びついていて、何があっても絶対に離れない集団であるようには全く見えないのです。
ちょっとしたきっかけで、崩れ去ってしまうような、あまりにも脆い存在のように見えるわけですね。
一見、繋がってるように見えるけど、本当は繋がってない。
そして、実際にそれはあるきっかけで脆く崩れ去ってしまったわけです。
でも、それは合わせ鏡のように、自分にも突き刺さってくるわけですね。
程度の差こそあるにせよ、鈴岡家と同じようなものではないのか。
ちょっとしたきっかけがあれば、脆く崩れ去ってしまうような、そのような強度しか持たない「もの」にすぎないのではないか。
僕は思わず、頭を抱えてしまいましたね。
先ほど紹介した、深田晃司監督の「家族観」のようなものが、頭から離れなくなってしまったのです。
「普遍的な人間の孤独」というものが根底にはあって、家族の誰しもが家族の構成員の誰にも本質的には踏み込むことなどできないのではないか、と。
『淵に立つ』における「宗教」と「孤独」について
『淵に立つ』では、「宗教」も重要なテーマとして扱われています。
章江は敬謙なプロテスタントで、過去に人を殺した八坂も、寛容な宗教精神を発揮して、救ってあげたいと思うわけです。
そしてそのような気持ちになれる自分が、崇高な人間であるかのように思っている面が無意識レベルでは確実にあるわけですね。
「宗教が自分の人生を幸せに導いてくれる」と信じ込んでいて、生活に宗教が深く入り込んでいるわけです。
ただ、そのような生活が一変するわけです。
自分が救ってあげたいと思っていた八坂が、自分の一番大切なもの、娘の蛍を殺してしまうわけです。
そこには何の救いもないわけです。
宗教など、全く無意味なもの、全く役に立たないものになり下がってしまったわけですね。
そのような救いの全く見いだせない人生を、これから長く生きていかなければならないわけですね。
宗教のある生活に浸っていた頃と比べると、それはまさに地獄と同じように感じることでしょう。
でも、それこそが本当の人生なのでしょう。
深田晃司監督にとって、『淵に立つ』という映画の最初の着想は、
ということだったようです。
交通事故、犯罪、自然災害などの、いきなり理不尽に理由なく日常を破壊してしまう「暴力」を描きたかったようです。
『淵に立つ』は間違いなく心の奥底を深く揺さぶられる映画
とりとめもなく、感じたことをそのまま書き連ねてしまいました。
湧き上がった感情をそのまま言葉にしてみたら、こんなとりとめのない感じになってしまいました(笑)
ただ、とにかく伝えたかったのは、『淵に立つ』は心の奥底を深く揺さぶられる映画だということなんです。
『淵に立つ』は、僕にとってまさにその「稀な」映画になってくれたのです。
そのような感情を多くの人にも味わって欲しいと感じてこの文章を書き連ねてきました。
決してハッピーな映画ではなく、ヒリヒリと心を削られるような映画でもあるわけですが、感情を深めてくれる芸術映画であることは間違いありません。
『淵に立つ』、まだ観ていない方は、是非とも一度観てみてください。
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出演している俳優陣の演技も素晴らしかったですよ。
浅野忠信、古舘寛治、筒井真理子の3人は、それぞれが持ち味をいかんなく発揮しています。
それぞれが凄まじいまでの深い演技を見せてくれます。
ただ単純にそういった面も楽しめる映画ですね。
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